2007/11/19

3本のばら

今年の東京は、3つの『ばらの騎士』を観ることができました。

6月に初台・新国立劇場の公演、
9月にチューリッヒ歌劇場の来日公演、

そして、今月。

『ばらの騎士』大好きな私は、もちろん全部観ました。


今日はザクセン州立歌劇場(ドレスデン国立歌劇場)の来日公演で『ばらの騎士』です。

http://www.japanarts.co.jp/html/dresden2007/index.htm

今年東京で上演されるばらの騎士の中ではこれが大本命です。
なにせ、ドレスデン国立歌劇場はばらの騎士を初演した伝統を持つ劇場ですから。

会場は横浜にある神奈川県民ホール。



東京公演の会場はNHKホールなのです。
NHKホールはあまりに巨大で、生音が命のクラシックの公演には向いていません。
あそこはマイク・PAを使ったポップス系の公演や公開録画向けのホールです。
というわけで私は、選べる場合はできるだけNHKホールを避けるようにしています。

指揮は、当初は準・メルクルの予定でしたが来日直前に音楽監督の
ファビオ・ルイージへ変更になりました。
結果的にはこれが大当たりです。

とにかくオケが素晴らしかった!

月曜日に聴いたマーラーの復活も良い演奏でしたが、
正直に言って若干の固さ・粗さがあり潤いに欠けるな・・・と思っていたのです。
でも今日は本当に素晴らしかったです。

終始うっとりさせてくれました。

弦から立ち上る馥郁たる香り、甘美な音色。
金管楽器の柔らかな響き。

ドレスデンは街もオケも大好きなので、何度か訪れてオペラも観ているし、
オケの来日公演も何度も行っているのですが、
率直に言って十数年前に初めて訪れたときの感動が
だんだん薄れてきているな・・・と思っていたのでした。

それが!今日は初めて聴いたときのあの感動を思い起こさせるできばえ。

ばらの騎士ぐらいに長めのオペラになると、演奏者も聴き手も
集中力が落ちてどうしても途中でダレる箇所があるのですが、
今日は、合間のなんでもないところでもこのオケの音色を堪能させてくれ、
まったく飽きることがありませんでした。

カーテンコールでも、指揮者に対してひときわ大きな拍手とブラヴォーが飛びます。

オケのコンサートのときは、ちょっと直接音が耳障りだな、と思っていたのですが
オケピットに入ってすこしくぐもるぐらいがちょうど良く聞こえる音作りなのだと思いました。
やはり本職はオペラのオケということなのでしょう。

歌手では、オックス男爵を歌ったクルト・リードルが出色の出来。
響き渡る低音、最低音でも安定した声、多彩なニュアンス。
すばらしいバス歌手です。
ただ、演技達者な感じもするので、彼ならもっとイヤらしい好色家を
演じられるのではないか・・・とは思いましたが。

元帥夫人は当初予定されていたアンゲラ・デノケの代役で
シュヴァンネヴィルムスが歌いました。
文句ナシの歌唱でしたが、どうせ代わるならニュルントに代わってほしかったです。
ニュルントはサロメとタンホイザーに出演のため来ていますが、
6月の新国立劇場の『ばらの騎士』で気品と風格に満ちた
見事な元帥夫人を歌ったのが印象的でした。

今回のばらの騎士のもう一つの目玉は、ゾフィを森麻季さんが歌うところです。
しかし・・・以前から思っていましたが、
森さんはオペラの舞台に立つには声があまりにも細すぎます。
第2幕の最初の部分ではゾフィより召し使いのほうが存在感バッチリになってしまうぐらい。
声がオケに消されてしまうこともしばしば。
でも、声は綺麗で歌も上手いので、第3幕最後のピアノで歌う
オクタヴィアンとの2重唱はとても美しく聴かせてくれました。

オクタヴィアンを歌ったヴォンドゥングは・・・
可もなく不可もなしといったところでしょうか。

演出は・・・ちょっと変な感じ。
第1幕はウィーンの貴族の屋敷。舞台セットは誰にでも納得のいくものだったでしょう。
しかし、一瞬だけカメラを持った観光客っぽい人がフラッシュを焚く場面が。

あれ?と思っていたら。

第2幕はファーニナル家の屋敷という設定ですが、
これが壁も床も白大理石で、金の飾りが付いた鏡のある室内。
でも、窓の外の光景を見ると高層マンションの1室のようなセット。
登場人物の服装は貴族の格好ですが、ちょっとモダンな感じ。

???

スーツ姿のスタッフが照明を用意したり、新聞記者たちが
フラッシュを焚いていたり。
銀のばらの贈呈の場面は結婚会見のようです。

第3幕も、舞台装置はおおむね伝統的な物ですが、
お化けになってオックス男爵を驚かすところでは
SM女王みたいなのや、ボクサーやかぶり物や、
記者たち(パパラッチ?)が出てきました。

どうやら今回の演出、
伝統的な貴族の館に住む現代のセレブという設定っぽい感じです。
第3幕の元帥夫人は、ファッション雑誌やデザイン雑誌から
そのまま出てきたようなモダンな格好です。

服装や舞台や気品を失わないものだったので、そこは◎。
SM女王みたいなのや、ボクサーやかぶり物や、パパラッチは×。
というのが、演出に対する感想でした。


今日のブラヴォーは、なんと言ってもオケとリードルでした!


今日の横浜は気持ちよい天気でした。
会場は山下公園の目の前なので、開演前に少し散歩しました。
天気がいいと海もきれいです。



終わる頃にはすっかり夜になっていました。




ayaya!さんが同じ会場に来ていたので、終了後に中華街へご一緒させていただきました。



ピータン豆腐。



大根もち。



この焼きそば、麺に唐辛子が練り込んであり、少し辛いのですが
唐辛子の風味が効いてとても美味しかったです。

他にも小龍包などを頼んだのですが、
あることに気を取られて写真を撮るのをすっかり忘れてしまいました。

・・・なんと、隣のテーブルに今日弾いていたオケの団員が!
しかも彼ら、英語も出来ないのに果敢にも中華街へ繰り出してきたのです。

今でも特に旧東ドイツの人は英語が出来ない人が多いのです。
ホテルでも「私は英語を話せます」というバッジをつけた人じゃないと英語ダメだし、
ドレスデン中央駅で国際列車の切符を売っている人も英語ダメだったりするし。

英語ですらアヤシイ日本で、ドイツ語で注文しようとします。
彼ら、「One」「Two」ぐらいしか英語を話せません。
店員さん、困ってました。

見かねて私とayaya!さんで(アヤシイ)通訳を。
ayaya!さんはドイツ留学の経験があります。

店員さん大感謝大感激で、なんとお会計からビールの分を引いてくれました!


ayaya!さんと話していたのですが・・・
東ドイツ(旧共産圏)の人って、無愛想ですねー。
仕事が終わって同僚と食事しているのに笑顔ひとつ見せません。
通訳してあげたのに、ちょっとお礼を言って終わり。
ぶすっとした顔のまま。
これがバイエルン地方の人だったら「Prost!!」でビールを一緒に飲んで陽気になるのに。
私たちにビールをおごるのは店員さんじゃなくてあなたたちでしょ!(笑)



今日はもう一つ素敵なことが。

ドレスデンのオペラのオケ(シュターツカペレ・ドレスデン)唯一の日本人団員である
1stヴァイオリンの島原さんから素敵なプレゼントをいただきました。



シュターツカペレ・ドレスデンのロゴ入りのキーホルダーです。
公演会場では売っていない貴重品。

島原さんは私と同じ大学の出身です。
特に親しいというわけではありませんが、学生時代に少しだけお話ししたことがあります。

シュターツカペレ・ドレスデンは私のもっとも好きなオーケストラであり、
450年以上の歴史を持つ世界最古のオーケストラです。
外国人のほとんどいない、世界でもっとも保守的なオケの一つでもある
シュターツカペレ・ドレスデンに知ってる方がいるというのは、
なんだか自分まで嬉しく・誇らしくなります。
このオーケストラの伝統を継ぐ者として認められているということですからね。




島原さん、ありがとうございました!


今年東京で聴いた3つの『ばらの騎士』の個人的お気に入り度。


オケ:
ドレスデン (シュターツカペレ・ドレスデン) → ★★★★★
チューリッヒ(チューリッヒ歌劇場管弦楽団)  → ★★★
新国立劇場 (東京フィルハーモニー交響楽団) → ★

  オケはドレスデンが圧倒的に良かったです。
  持っている「モノ」の格が違うと感じました。
  安定度ではチューリッヒも良かったのですが、インパクトに欠けました。

指揮:
ドレスデン (ファビオ・ルイージ)      → ★★★
チューリッヒ(フランツ・ウェルザー=メスト) → ★★★★
新国立劇場 (ペーター・シュナイダー)    → ★★★★★

  手堅く変にいじらない、シュナイダーの音楽が好印象です。
  ルイージはちょっと細かく振りすぎ・いじりすぎのきらいも。
  ウェルザー=メストは、サラサラと流れていってしまうので物足りなさが残りました。

演出:
ドレスデン (ウヴェ=エリック・ラウフェンベルク) → ★★★
チューリッヒ(スヴェン・エリック・べヒトルフ)   → ★★
新国立劇場 (ジョナサン・ミラー)         → ★★★★★

  ジョナサン・ミラーの格調高く気品あふれる演出!大好きです。
  チューリッヒのヒトルフの演出はなんだかヘンテコリンでした。
  ドレスデンのラウフェンベルクの演出は、上述の通り。

元帥夫人:
ドレスデン (アンネ・シュヴァンネヴィルムス) → ★★★★
チューリッヒ(ニーナ・シュテンメ)       → ★★★★
新国立劇場 (カミラ・ニールント)       → ★★★★★

  元帥夫人は、新国立劇場で歌ったニールントが素晴らしい気品でした。
  シュヴァンネヴィルムスは代役としては文句ない出来でしたが、
  本来予定されていたデノケだったら1位だったかもしれません。
  ニールントに代わってくれても1位だったかも知れません。

オクタヴィアン:
ドレスデン (アンケ・ヴォンドゥング)    → ★★
チューリッヒ(ヴェッセリーナ・カサロヴァ)  → ★★★
新国立劇場 (エレナ・ツィトコーワ)     → ★★★★★

  カサロヴァは前評判の割にはイマイチ、
  新国のツィトコーワが光っていました。

ゾフィ:
ドレスデン (森麻季)         → ★★
チューリッヒ(マリン・ハルテリウス)  → ★★★
新国立劇場 (オフェリア・サラ)    → ★★★★

  際だって素晴らしいゾフィはありませんでしたが、
  新国で歌ったサラの初々しい演技が良かったです。

オックス男爵:
ドレスデン (クルト・リドル)    → ★★★★★
チューリッヒ(アレフレッド・ムフ)  → ★★★
新国立劇場 (ペーター・ローゼ)   → ★★

  何と言ってもドレスデンのリドル!圧倒的です。
  新国で歌ったローゼは第2幕最後の例の最低音が安定しませんでした。

冷静になってこうしてみると、新国立劇場もなかなか
水準の高い上演をしていると思います。
歌手と指揮と演出は1番だと思いますから。
これでオケが良ければ・・・

トータルではやはり本命ドレスデンです。
リドルとオケで圧勝です。
お芝居ではなく、音楽ですから、オケは重要です。

・・・しかし、オペラはオケ・歌手・演出などたくさんの要素があるだけに
すべてにおいて完璧と思える上演というのはなかなかありませんね・・・


2 comments:

匿名 さんのコメント...

今日はご一緒できて大変嬉しかったです。
オペラ通の方に、色々と教わって、なんだか
さらに得した気分になりました。
有難うございました!

liebejudith さんのコメント...

ayayaさん、

楽しかったですね。オペラも良かったし、
その後入った店でドイツ人たちが隣にいたのも面白かったし。

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