吉川隆弘さんという方のピアノリサイタルを聴きに行ってきました。
吉川さんは兵庫県出身、芸大卒、34歳のミラノ在住のピアニストです。
スカラ座オケと何度も競演され、地元では高い評価を得ているのだとか。
恥ずかしながら私はこのピアニストを知らなかったのですが、
Rubyさんに強く強く勧められて行ってみることに。
私とほぼ同世代のピアニスト。
とんでもない実力を持ちながら日本では知名度がイマイチという
演奏家は少なくありません。私もそう言う人を何人か知っています。
今日もそんな演奏家に出会えることを期待しつつ・・・
会場はJTアートホール。
プログラムは、ベートーヴェンのワルトシュタイン、
シューマンの3つの幻想小曲集op.111、トッカータハ長調op.7、
ショパンの序奏とロンドop.16、即興曲2番op.36、
ノクターン7番op27-1、8番op27-2、スケルツォ3番op39。
ベートーヴェンは・・・正直なところ、かなり微妙でした。
彼特有の和声進行やフレーズにあるファンタジーを感じ取っていない様子。
一つ一つの音をソルフェージュできていない(というか、しない人っぽい)ので、
速いパッセージがすべて曖昧。
おまけに、恐らく吉川さん自身が想定していたテンポよりも
速く弾き始めてしまったことも相乗して速いパッセージを弾ききれません。
ミスタッチも連発し、フォルテの音が汚い。
良かったのは、ロンドの冒頭。柔らかい「世界」を感じさせる演奏でした。
・・・吉川さんはベートーヴェンがあまり得意ではないのでは?
その得意ではないベートーヴェンがさらに不本意な出来だったのでは?
その答え、そしてRubyさん絶賛の理由は後半とアンコールにありました。
この方、フワーッと美しく柔らかい響きで雰囲気を作るのが上手いです!
長身で手も大きそうなのですが、mf以下の音量で柔らい響きで弾くところに
良さが出ているように思いました。
Rubyさんがラヴェルを聴きたいと思った理由がわかりました。
ショパンで調子を取り戻したのか、尻上がりに良くなっていき、
最後のスケルツォは素晴らしい演奏でした。
調子が上がってくるとフォルテもバッチリはまるようになってきます。
そして、アンコール。
ショパンのバラード1番、ドビュッシーの水の反映、
リストのリゴレットパラフレーズ。
ここにきて、彼の本領発揮だったのではないでしょうか。
柔らかな音からフォルテまで、ゆっくりから速いフレーズまで、
自由自在やりたいように弾けていたのだと思います。
会場全体が息をのむような名演奏でした。
特にドビュッシーは彼の良い面が存分に発揮されていたように思います。
ベートーヴェンなどドイツものは、いかに楽譜を深く読み込んで、
一つ一つの音・フレーズを作り、丁寧に積み上げ、
その結果気がついたら壮麗な大伽藍・ベートーヴェンの世界ができあがっていた、
みたいな、構築美や造形美で聴かせるところがあります。
しかし吉川さんは楽譜を読み込むというより、
その曲の雰囲気・世界をいかに感じ取るか?
から入るアプローチのように思いました。
スロースターターなところや、「きちんとソルフェージュ」よりは
「感じ」「感覚」「感性」で弾くところ、
調子に乗ってくるとどんどん熱を帯びてくるところなど、
いかにもラテンのお国仕込みな感じです。
日本のコンクール社会には受け入れられにくいタイプですが
聴いて楽しい演奏家ですね。
惜しいのは、ベートーヴェンを弾いたこと。
彼の得意分野には聞こえませんでした。
関西出身、ミラノ在住の吉川さんにとって、
東京でのリサイタルは言わば「アウェー戦」なはず。
プログラムを得意分野で固めてもよかったのでは?
と思わずにはいられません。
それから、お客さんの入りが悪かったこと。
3割ぐらいだったでしょうか?
日本では地盤か大きなコンクール歴が無いと集客が厳しいですね。
私もRubyさんに勧められなかったら知らなかったコンサートでしたから。
ともあれ、素晴らしいピアニストとの出会いを
紹介してくださったRubyさんに感謝です!
それから、チケットを用意してくださったRubyさんのお友達のミミさん、
ありがとうございました。
今日はお会いできずに失礼しました。
いつかRubyさんと3人でお会いできたらいいですね。
吉川隆弘氏の公式サイト
http://www.takahiroyoshikawa.com/
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お久しぶりですがブログお引越し
6 年前
7 comments:
貴重なお時間と丁寧なご感想どうもありがとうございます。
ベートーベンですかあ。。。他のステージの曲目にはなかったように思います。確かに音の感じというか、キャラが違う気も。なぜ東京だけ入れたんでしょうね。。。。
でも私が貧しい形容力で伝えきれないところを、liebeさん、さすが専門家的に的確に説明してくださって、
そうそう、そのとおりです、はい、と頷いてしまいました。
確かにドイツ的な感じはないですもんね。
これを機に私ももう少しクラシック、興味出てきました。機会があればもっと色々足を運んでみようと思います。
いつかお会いできたらいいですね。ミミも残念がってました。
どうもありがとうございました。
Rubyさん、
いやいや、こちらこそコンサートをご紹介いただき、ありがとうございました。
楽しかったです。
まあ。憧れのミラノで活躍なさっているピアニストさんですね!
HPで演奏聞いてみたけど、ミケランジェリにちょっと似ている・・・と思ったら、お弟子さんに師事なさったんですね。とくに、ロマン派以降の歌い方などが、ミケランジェリにソックリです。
ミラノ行ったら、絶対、ミラノ大聖堂とスカラ座行くぞ~というのがわたしの夢です。^^
私も一度聴いてみたいですね。
確かにラテン国で勉強したら、オケもそうですけど、ベートーヴェンとかドイツ系の作品って、ちょっと違うんですけど、、、って思う仕上がりになってしまいますよね。
でも、ラテン系の作品を演奏させたら、やっぱりこれって血かなって思わせるところもあって、どっちが良いとは言い難い。
たして2で割ったのが理想だけど。。。。
りんさん、
そうなんですか?私はミケランジェリをよく知らないんです。
私がミラノに行ったときは、ドゥーモには行きましたが
残念ながらスカラ座は改修工事中でした。
りーさん、
そうそう。ドイツが基準だとドイツものは「なんだか違う・・」という
違和感があるんですよね。
でも、イタリアの劇場のイタリアオペラやフランスのオケのフランスものは
こうでなくちゃ!という音がする。
おもしろいですね。
とてもとても興味深くじっくりと読んでしまいました。
うまく言えないんですが、素晴らしい事を教えてくれたような。そんな文章です。
レッスン以上に多くの事を学んだ気がします♪
意味不明ですみません(^^;
にゃんぴんさん、
あららら。こっちもなぜそこまで言っていただけるのかよくわかりませんが・・・(^^;
いろんなタイプのピアニストがいて、面白いですね。
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